<本たち> BUTTER 柚木麻子 (新潮文庫)

本たち

柚木麻子さん。
その名を聞いて「アッコちゃんシリーズ」をはじめ、鼻腔や舌を美味しく刺激する作品の記憶がよみがえる方、少なくないのではないでしょうか。
こちら「BUTTER」は、連続殺人容疑者の女性にはまりこんでいく敏腕女性記者が主人公。
「バター」は容疑者と記者のやり取りの中に現れる重要なモチーフです。
バター醤油ご飯、カトルカール(パウンドケーキ)、バター乗せラーメン、バタークリームのクリスマスケーキ…
容疑者が記者に食べるようにと指示するのは全て、バターたっぷりの美味しいものたち。
命じられるまま、忠実に食を進めていくうち、記者の体型も、そして自身と周囲の人たちの運命までも予測不可能な方向へ転がりだしていきます。
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<BUTTER> 評価が分かれる理由

作品を読み終えてから、ブックレビューを流し読みしたところ、評価がかなり分かれていました。
小説の技術的な面に関する評価をのぞいて、低い評価をつけた方は大きく分けて二通り。
まず、この作品が現実にあった「首都圏連続不審死事件」を土台としていることを念頭に読み始めた方たち
容疑者と被害者たちとのやりとりの場面の少なさへの物足りなさが原因の低評価のようです。
もう一つは、主人公への共感が難しい方たち
作品中かなり大きなスペースを占めている、女性と女性の関係における心の動きや、自らの体型とアイデンティティの密接なつながりなどに対する共感の難しさからくる低評価。
けれど同じくらい、感情描写の鮮やかさ、的確さ、そしてまるで自分の舌で体験しているような味覚や嗅覚にダイレクトに感じさせる食べ物の表現を評価する声も多くきこえました。

<BUTTER>もしかしたら痛点を刺激されるかも…

柚木麻子さんは、ご自身のお気に入りの一曲、椎名林檎が19歳のともさかりえに提供した曲「カプチーノ」について、好書好日というサイトの中で、このようなエッセイを書かれています。
 親密な女性同士が離れ離れになる時、そこには少なからず社会の力が働いていると私は思っている。それをなんとか防ぐ方法を模索したくて小説を書いているところがある。女同士が薄情だとかドロドロしているのではなく、この国家を形成している家父長制が、経済政策が、日常レベルの人間関係にまで影響をおよぼし、立場の弱い女性がわりをくわされているのだと、私は思う。確信をもって言えるのは、椎名林檎が今取り組むべきは東京オリンピックではなく、ともさかりえに曲を書くことだ。 好書好日「大好きだった」より
エッセイの中での「親密さ」が恋愛のようなものを指すのではないでしょうが、そういえば私が初めて読んだ柚木作品を「おもしろいよ」と紹介してくれたのは、女性に惹かれるタイプの女性の友達でした。
BUTTERのなかでも、主人公が「この人の王子様でいたい」と思う親友との友情や、主人公が容疑者に抱く濃厚な好奇心や愛情が心に迫る鮮やかさで描かれています。
BUTTERの魅力は、嫉妬、執着、無意識レベルの代償行動などなど、心の底に沈めてなかったことにしてあるものたちが、読み進めていくうちに浮かび上がってきてしまうくらいの鮮やかさ。
隠しているものの量が多いほど、感じる痛みも大きい、そんな怖さも…きっとあると思います。

<BUTTER> 物足りないラストは作者の優しさかも

中盤の終わりころ、主人公が作品中で恋人よりも親友の存在が大きいことを自覚する場面をピークに、なだらかに着陸態勢に入っていく感があります。
レビューではラストの物足りなさを指摘する声もちらほら見られましたが、これはもしかしたら作品中で、予想外なほど鋭く自分と対峙することによって打ちのめされてしまった読者への優しさなのかもしれません。
ふっと体中の力が抜けていくような、
「なーんだ、大丈夫だったんだ」と拍子抜けしてしまうような安心感、
そんな明るくて優しくて柔らかな物足りなさが連れてきてくれる脱力感に緩む感じは、きつめの筋トレ後、痛くない系のマッサージを施してもらっている心地よさに似ているかも。
「BUTTER」のその後、書店で見つけたら、きっと即購入してしまいます!

<BUTTER>作品中に出てきた「プラリネ」とは

さて、作品中、容疑者の口から故郷新潟の美味しいものの一つとして「プラリネ」というスイーツの名がこぼれる場面があるのですが、そのプラリネがこちら

新潟では引き菓子にもよく用いられます。

切るとこんな感じ。

トップはキャラメリゼされたスライスアーモンドが敷き詰められ、スポンジにはあんずのジャムがサンドされています。

側面はチョコレートでコーティングされて、甘さはかなりしっかり。

ちなみにこちらのプラリネにはバターは使われていないようです。



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