「こないだのグループ発表会のとき、お母さんがいちばんダサかった」「え?」
年頃の子どもと母親との会話らしいフレーズ。
「これはきついわ…」
娘にこれを言われたら…と自分を重ねながら即決で家に連れてきてしまいました。
<見た目レシピいかがですか?> ストーリーの概略
「見た目レシピいかがですか?」は、4つの短編から成り立っています。
第一話「純代の場合」
主人公の純代は、44歳。私立女子中学1年生の娘に上記の言葉を投げられた後、夫にまで
「ちょっと太ったんじゃない」とか「白髪だらけじゃないか」とまで言われ、踏んだり蹴ったり。
けれど、それをきっかけに、イメージコンサルタント繭子と出会います。
繭子のアドバイスを受け、ファッション、メイク、ヘアスタイルを一新した純代はすっかり垢ぬけ、所属するママ友グループまで変わりますが…
きらきらした女子に、なんとなく意地悪な気持ちを持ってしまう。
そしてそんな自分の器の小ささにがっかり。
40代になっても変わらない、女の子だった頃の心の習性に心揺さぶられつつ、そんな心の揺れを「ともだち」と共有することの甘やかな心地よさ。
息をするように共感を感じる女性読者は少なくないのではないかな、と思いました。
ネタばれにならない程度に、残り三つのストーリーを軽くご紹介しますと…
第二話「あかねの場合」
不倫相手の私服のかっこ悪さが許せず、繭子のイメージコンサルタントを受けさせたあかねの物語。
第三話「美波の場合」
主人公美波は、恋人とのクリスマス目前に繭子のコンサルタントを受け、メタル系ファッションから大人のきれい目ファッションに変身。周りの評判も上々だったのですが…
第四話「繭子の場合」
次々に女性を美しく変身させていくイメージコンサルタント、繭子の私生活、子どもの頃からイメージコンサルタントを始めるまでの紆余曲折が描かれています。
ありのままの自分で言いい、年齢や外見なんて関係ない、と思っていても、頭のどこかで、男目線からの「女のあり方」が居座っているのは本当に厄介なものだ。(中略)ならばいっそきれいになって男からの視線など軽く凌駕してしまえばいい。印象が良くなってきれいになれば、自然と自分に自信がついて、年齢や男の視線などどうでもよくなるのだ。
繭子が仕事をしていく上での軸は「きれいになることによって、窮屈さを感じている女性が幸せになるよう応援したい」という思い。
魔法使いのような存在だった繭子の内面をが種明かしのように描かれています。
今を超えるヒント
ありのままでいい、と思っていても心のどこかで引っかかっているもの。
見た目に限らず、色々あるのではないでしょうか。
ある人にとっては金銭的余裕
ある人にとっては学歴
ある人にとっては地位
などなど。
それらがあることをいったん認めて、それらを手に入れてみること。
または手に入れてみようとすること。
手に入れてみて初めて「素晴らしいと思っていたこと」の正体がわかり、それを超えていける。
このストーリーから私自身は、そんな今を超えるヒントを贈られたような気がします。
コンサルを受けて美しくなった登場人物の三人の女性たちは全て、いったん得た魅力の先に、本当の意味でのありのままの自分と和解しています。
「夢を叶える」ことは、人生のゴールではなく、人生のゴールにたどり着くためのひとつのツールなのかもしれません。
<見た目レシピいかがですか?> その読み心地
読書はエンターテインメント
そんなフレーズがぴったりのこの作品。
文字を追うごとに浮かび上がってくる絵が、楽しく物語を繰り広げてくれます。
まさに「あっという間だった」という読後感。
作品を読んでいる時に感じる独特の心地よさのありかは、作者の人間という存在への肯定感。
そして「かつての子どもだった存在」としての大人を描く、お母さんのような愛しむような視点にあるのではないかな、と思いました。
惰性の日常に本当は飽き飽きしている。
変化を求めつつ、年齢や環境を思うと動けない。
そんな方に手に取っていただきたい一冊です。
コメント